【今さら聞けない訴訟の話①】「刑事訴訟」と「民事訴訟」の違いって、何?

 2022年8月23日
言葉としてはよく聞く、「刑事訴訟」「民事訴訟」
さらに「刑事事件」と「民事事件」、そして「刑事裁判」と「民事裁判」もよく聞く言葉だと思います。
しかしニュースなどで耳にしても、なんとなく聞き流したり、雰囲気で理解した気になったりで、実はよく違いが分かっていない人もいるのではないでしょうか。
一言でいえば「刑事」と「民事」のもっとも大きな違いは、「原告(裁判で訴える側)」が誰か、ということです。
それぞれ詳しく説明して行きましょう。

もくじ
 ・国が訴えるのが『刑事訴訟(裁判)』
 ・個人が訴えるのが『民事訴訟(裁判)』
 ・原告の違い以外の「刑事訴訟」と「民事訴訟」の違い
 ・個人が「刑事訴訟」を働きかけるには
 ・まとめ

 

・国が訴えるのが『刑事訴訟(裁判)』


「刑事裁判」の原告(訴える側)は「日本国」です。
具体的には、検察官が国の代理として訴えるという形になります。「刑事」という言葉がついているので警察と勘違いする人もいますが、刑事事件の原告は必ず検察です。
被告(訴えられる側)は法を犯した罪を問われた「個人」で、裁判の結果原告が勝てば、被告人には刑罰が下ります。裁判所はその量刑も決定して、告知することになります。
つまり裁判のニュースで「懲役」や「執行猶予」というワードが出て来たら、それは刑事裁判ということになります。

という訳で、「国(の代理の検察)が犯罪を犯したと疑われる個人を訴えて、裁判所が罪や量刑を決める」のが刑事裁判です。
その対象となるできごと(事件)を「刑事事件」と言い、刑事裁判を含む法的な手続き全般が「刑事訴訟」ということになります。
ちなみに刑事裁判では、原告側が99.9%勝ちます。基本的には警察が逮捕して、証拠を揃えて検察に送るので、その時点で有罪の可能性が極めて高い、ということです。

 

・個人が訴えるのが『民事訴訟(裁判)』


対して、「民事裁判」の原告(訴える側)は個人です(企業や団体の場合もあります)。
そして被告(訴えられる側)も個人です。
つまり基本的には「人と人の揉め事の仲裁を裁判所に委ねる」のが民事裁判ということになります。

民事裁判は被告が企業や団体の場合も、そして国の場合もあります。
よって民事裁判には、「個人と企業・団体」「企業と企業」「個人と国・地方自治体」など、あらゆるパターンが含まれます。ただし国や地方自治体を被告とする裁判は「行政裁判」と呼ばれる特殊なものなので、基本的には「民間の個人や企業の間での揉め事」が対象と把握しておきましょう。

このため民事裁判の判決は、多彩な内容になります。
もっとも多いのが被害の弁済や慰謝料の支払いなど「お金で解決する」ことですが、何かを禁止したりシステムを改めるよう求めたりすることもあります。

という訳で「民間の個人や企業の間での揉め事の仲裁を裁判所に依頼し、お金の支払いなどで解決する」のが民事裁判です。
その対象となる出来事が「民事事件」で、裁判を含む法的な手続き全般が「民事訴訟」ということになります。
このサイト「ZENSHO」で行う集団訴訟も、民事訴訟の一種というわけです。

 

・原告の違い以外の「刑事訴訟」と「民事訴訟」の違い


「原告の違い」以外にも、刑事訴訟と民事訴訟の違いは幾つかありますので、説明しておきます。
①反訴の有無(民事裁判のみ有り)
民事裁判では、原告が被告を訴えた事実が違う場合や、原告側の落ち度が別にあった場合、被告が原告を訴え返すことができます。これを「反訴(はんそ)」と言いますが、刑事裁判の場合は被告が国や検察を訴え返すことはできません(誤った逮捕や訴訟で被った被害を民事で訴えることは可能です)。

②裁判員裁判の有無(刑事裁判のみ有り)
被告の有罪無罪や量刑を決める際に、裁判官以外に国民から無作為(ランダム)に選ばれた裁判員が参加する場合があります。これが裁判員制度で、日本では2009年に始まりました。裁判員制度が適用される裁判員裁判は、ごく一部の凶悪かつ重大な刑事裁判でのみ採用されています。

以上が主な「刑事裁判と民事裁判の違い」です。
何度も繰り返しているように、そもそもの主な目的が「刑事裁判=国(検察)が被疑者の有罪無罪・刑罰を決める」「民事裁判=民間の一般人同士の揉め事を解決する」という大きな違いがあるのを理解すれば、それに付随するさまざまな違いはイメージしやすいと思います。

 

・個人が「刑事訴訟」を働きかけるには


これまで説明してきた通り、刑事訴訟は国、その代理である検察官だけが起こす(原告になる)資格があります。逆にいえば、民事訴訟は国民誰もが起こす資格があるのです。

これに対して個人は直接訴える資格がない刑事裁判ですが、刑事事件として扱ってもらって刑事裁判の対象としてもらうように、国家権力に働きかける手段はあります。
もっとも代表的なものは、警察に「被害届」を提出することです。
損害を負わされた、負傷させられた、名誉を毀損されたなど、「個人が個人に負わされたダメージ」を警察に被害届として提出することにより、警察は証拠調べをして、必要と判断すれば検察へと書類送検します。その上で検察官が起訴・不起訴を決めて、起訴されれば刑事裁判となるのです。
また単なる「被害」よりさらに差し迫った犯罪被害を受けた場合は、「告訴」として検察庁や警察へ届け出ることも可能です。

民事裁判の原告になることも、刑事裁判で扱ってもらうべく被害届を提出するのも告訴を行うのも、その資格は誰にでもあります。
国民の権利を適切に行使して、自分の生活や財産は自分で守ることが必要です。その際の助けとして、弁護士はとても頼りになる存在ですので、トラブルの際には「弁護士に相談すること」を選択肢の一つとして持っておくことをお勧めします。

 

・まとめ


「刑事訴訟」とは「国(の代理の検察)が犯罪を犯したと疑われる個人を訴えて、裁判所が罪や量刑を決める」こと。その対象となる事件が「刑事事件」、裁判が「刑事裁判」です。
基本的に原告は検察で、被告は個人。国民が原告になることはできませんが、被害届や告訴によって公権力による刑事事件化を促せる可能性があります。「懲役」や「執行猶予」という言葉が出てくるのは刑事事件だけです。

「民事訴訟」とは「民間の個人や企業の間での揉め事の仲裁を裁判所に依頼し、お金の支払いなどで解決する」こと。その対象となる事件が「民事事件」、裁判が「民事裁判」です。
基本的に原告は一般の個人、被告も一般の個人の場合が多くなります。国民誰もが原告になり裁判を起こす権利があります。