【集団訴訟の実例①】「茶のしずく」アレルギー誘発事件

 2022年9月27日
「ZENSHO」が目指す、集団訴訟を起こしやすい社会。
果たして、実際の集団訴訟はどのような件で起こされているのでしょうか。
有名な実例を見ておきたいと思います。

もくじ
 ・「茶のしずく」アレルギー誘発事件とは
 ・被害者弁護団結成、集団訴訟へ
 ・集団訴訟の結果
 ・被害の回復、アレルギーの予後
 ・まとめ

 

・「茶のしずく」アレルギー誘発事件とは


「あきらめないで!」
元・宝塚歌劇団のトップスター、真矢みきさん(現芸名・真矢ミキ)がラストで語り掛けるのが印象的だった、石鹸のCMを覚えている方も多いかと思います。あのCMの石鹸が、2010年代に多数の集団訴訟の対象となった、株式会社悠香の「茶のしずく石鹸」です。

当時の「茶のしずく石鹼」には、小麦由来の成分(小麦加水分解物「加水分解コムギ・グルパール19S」)が含まれており、これを肌を通して吸収することで小麦アレルギーを発症、それまで普通に食べられていた人が相次いでパンやうどんを食べてアナフィラキシーショック(呼吸困難や意識不明など重篤なものを含む、全身のアレルギー反応)を起こす、という事件が起こりました。

「茶のしずく石鹼」は2005~10年の間にのべ467万人に4650万個が販売されており、このうち重症だけでも66名、軽症合わせるとこれまでに数百名以上の被害が確認されています。厚生労働省は2010年10月に消費者に対する注意喚起を行い、株式会社悠香は同年12月8日に小麦由来成分を含まない新商品をリリースすると同時に返品交換を開始。その後自主回収も行われ、今でも厚生労働省のサイトにその経緯が掲載されています。
「茶のしずく石鹸」の自主回収について

小麦を加水分解した成分を含有した旧「茶のしずく石鹸」(愛称)(平成22年12月7日以前に販売された製品。以下同じ。)の使用者において、パンや麺類など小麦を含有する食品を食べた後に運動した際に全身性のアレルギー(運動誘発性のアレルギー)を発症した事例が報告されたことを受けて、製造販売業者が旧「茶のしずく石鹸」を自主的に回収しています。

回収対象の製品は平成22年12月7日以前に企業が出荷したものです。回収対象の製品をお持ちの方は、この製品を使わないようにしてください。
回収対象の製品をお持ちの方は、下記の「返品・交換や製品についての問い合わせ先」にご連絡ください。
回収対象の製品を使用していた方で、小麦食品摂取後に息苦しくなるなどの運動誘発性アレルギーを経験した場合には、速やかに医師にご相談ください。 旧「茶のしずく石鹸」を使用したことにより発症する小麦アレルギーの診療可能施設のリストがリウマチ・アレルギー情報センターホームページ(http://www.allergy.go.jp/allergy/flour/003.html)で公開されていますのでご参照ください。
返品・交換や製品についての問い合わせ先
株式会社悠香(福岡県大野城市御笠川5-11-17)
お客様窓口(午前9:00~午後8:00)
フリーダイアル 0120-11-22-66
HP(http://www.yuuka.co.jp/)

(元記事・引用元はこちら→https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/cyanoshizuku/index.html

ちなみに加水分解コムギという材質自体は化粧品などに広く使われていますが、アレルギーを発症させた症例が報告されたのは「茶のしずく石鹼」に使われていた片山化学工業研究所生産の「グルパール19S」のみ。しかもこれを摂取すると万人がアレルギーを発症する訳でもなく、同成分を使用していた他社製品からのアレルギー発症報告も皆無でした。

・被害者弁護団結成、集団訴訟へ


被害者弁護団が結成され、全国15か所の裁判所で集団訴訟を起こしました。
訴訟の対象は、「茶のしずく石鹼」を販売していた株式会社悠香、同社が製造を委託していた株式会社フェニックス、加水分解コムギ「グルパール19S」を製造していた片山化学工業研究所の3社。損害賠償の要求の総額は70億4千万円にのぼっており、被害者多数の消費者問題としての関心に加え、国内最大規模の集団訴訟としても多大な注目を集めました。

裁判で弁護側は「アレルギーの因子にはそもそもの遺伝子・体質もあり、すべての使用者が発症する訳ではない」「小麦アレルギーはパンを食べて発症することもあるので、茶のしずく石鹸はアレルギー要因としてはあらゆるパンなどと同じである」ことから、商品に欠陥はないと主張。アレルギーの原因を一義的に商品に求めることはできないとして、請求棄却を求めて争いました。

・集団訴訟の結果


全国28か所の裁判所で起こされた集団訴訟は既に全ての件で和解が成立しており、株式会社悠香のオフィシャルサイトでもこの件が宣言されています。
2012年に提起されました訴訟につきまして
旧茶のしずく石鹸( 2010年12月7日までに販売していた石鹸)を使用したことによりアレルギー症状を呈したとして、2012年に全国の裁判所に提起された訴訟 (全28カ所) につきましては、
すべての方と和解させていただきました。

弊社と致しましては引続き、肌に直接触れる製品をお届けする企業として、お客様の声に真摯に耳を傾け、更なる品質・安全性向上を目指した製品づくりに取り組んでまいります。

なお、現在の『悠香の石鹸』(2010年12月8日より販売しております石鹸)は、小麦由来成分を除いたものでございますので、どうぞご安心してご使用くださいませ。

ご不明、ご不安の点がございます際は、何なりとご相談ください。

株式会社悠香 広報担当

(引用元ページはこちら→https://www.yuuka.co.jp/info/news2012.action

合計約70億円の請求に対して、実際に株式会社悠香・株式会社フェニックスが支払った和解金の総額は約12億円で、片山化学工業研究所の責任に関しては全ての裁判で認められませんでした。全ての裁判で「一人当たり1千万円以上の損害賠償を請求して、実際は150~250万円程度の和解金で和解した」という結果になっています。

・被害の回復、アレルギーの予後


「茶のしずく石鹼」による小麦アレルギーに関しての研究のために、片山化学工業研究所の出資により、NPO法人生活習慣病予防研究センターの運営で2017年5月「片山基金」創設。喘息治療薬オマリズマブ(「ゾレア」)の投与で改善効果が得られることが解明され、治験で投与を続けた茶のしずくアレルギー患者が制限なく小麦を摂取できるようになったことが報告されました。
これを受けて、島根大学医学部附属病院(NPO法人の代表は同大学教授)で茶のしずく石鹼アレルギー患者の「ゾレア」投与治療が開始されており、その治療費は全額「片山基金」が負担しています。

このように、裁判では責任が認められなかった化学工業研究所が治療法の研究を主導し、それを実践する資金の負担まで行ったのは、同社本来の企業倫理はもちろんですが、集団訴訟で社会的な注目を浴びたという要因が大きかったと思われます。
「社会的な関心を集めることにより、いわゆる“逃げ得”を許さないように、被害者だけでなく社会全体で見守る」という、集団訴訟の最大の目的が明確に果たされた例と言えるでしょう。まさに「あきらめないで」良かった集団訴訟です。

なお現在でも「茶のしずく石鹼」は販売されていますが、2010年12月8日以降出荷の商品には加水分解コムギなどの小麦由来成分は全く含まれていません。農薬不使用茶の二番茶茶葉のみを使用し、カテキンを豊富に配合しダメージ肌ケア・肌荒れ防止を防ぎ、美肌へ導くアイテムとして人気を博しています。
「悠香 茶のしずく石鹼」商品リンクはこちら

 

・まとめ


・「茶のしずく」アレルギー誘発事件は、株式会社悠香の「茶のしずく石鹼」に含まれる小麦由来成分を肌を通して繰り返し摂取することにより、多数の消費者が小麦アレルギーを発症した事件です。
・多数の被害者が大規模な集団訴訟を起こし、3社相手に総額70億円の損害賠償を請求しました。
・全国28裁判所での裁判は全て和解、総額約12億円の和解金で決着しています。
・裁判では責任が認められなかった、加水分解コムギを生産した片山化学工業研究所が基金を設立し、治療法の解明や治療費の負担を行い、被害の回復に尽力。集団訴訟の社会的な意義が明確になった好例です。