【今さら聞けない訴訟の話②】「地方裁判所」や「最高裁判所」って、何?

 2022年8月23日
ニュースを見ていると、「地方裁判所」「最高裁判所」などいろいろな裁判所の名前を聞きます。
「最高裁判所」は"最高"というぐらいですから、日本に1つしかなさそうですが、他の裁判所は「××地方裁判所」などと頭に地名が付いた呼び名をよく聞くように、複数あるようです。

果たして、どんな裁判所がそれぞれ幾つずつあるのでしょうか。


もくじ
 ・「裁判所」には5種類・547か所もある
 ・3回審判を受けられる「三審制」
 ・「第一審」「第二審」「第三審」はそれぞれの役割がある
 ・第一審「地裁」「家裁」「簡裁」の役割
 ・まとめ

 

・「裁判所」には5種類・547か所もある


日本には、「最高裁判所」の下に「高等裁判所」、そして「地方裁判所」「簡易裁判所」「家庭裁判所」があります。
ちなみに「最高裁判所」以外の4種類の裁判所は、"最高裁"以外ということでまとめて「下級裁判所」という総称で呼ばれることもあります。高等裁判所は"高等"なのに"下級"という、かなりややこしいことになっていますね。
それぞれの裁判所の数と設置場所は、以下のようになっています。

◆最高裁判所(最高裁)…1か所(東京)
◆高等裁判所(高裁)…8か所(東京・大阪・名古屋・広島・福岡・仙台・札幌・高松)
◆地方裁判所(地裁)…50か所(北海道のみ札幌・函館・旭川・釧路の4か所、他の46都府県は都府県庁所在地に1つずつ)
◆家庭裁判所(家裁)…50か所(地裁と同じ都市、ほとんどの場合同じ敷地・隣接した敷地に設置されている)
◆簡易裁判所(簡裁)…438か所(地裁・家裁と併設の50か所をはじめ東京9か所・大阪12か所など各都道府県に複数設置、最多は北海道の33か所・最少は鳥取の3か所)

上記すべて合わせると、日本全国に5種類・547か所の「裁判所」があることになります。ただし高等裁判所には支部が6か所(金沢・岡山・松江・宮崎・那覇・秋田)あり地理的に遠い地域をカバー、そして東京高裁の特別な支部として「知的財産高等裁判所」というものも存在しています。また地方裁判所・家庭裁判所には支局がそれぞれ203か所、さらに家庭裁判所には出張所が77か所あり、きめ細かな対応をしています。

 

・3回審判を受けられる「三審制」


このように、裁判所とその支部・出張所まですべて合わせると、実に1000か所を超える機関が設置されていることになります。裁判を起こすのは国民の権利なので、地理的な差で大きな不利益が生じるといけない、ということで全国にこれだけの数の機関があるのです。
それでは、5種類ある裁判所にはそれぞれどのような働きがあるのでしょうか。



裁判所は、この図のように役割によって3段階の階層を作っています。
「高等裁判所」が「"下級"のなかでは"高等"」という位置づけになっているのがよく分かりますね。
国民の誰かが「裁判を起こそう」「訴えよう」と思った場合は、まずはこの図の一番下に並ぶ「地方裁判所」「家庭裁判所」「簡易裁判所」のいずれかに訴状を送ることになります。訴状が受理されて裁判が開かれると、最初の審判を受けるということでそれが「第一審」と呼ばれます。

第一審を皮切りに、日本では誰もが最大3回の審理(事実関係・法律関係を明らかにすること)と審判(審理の結果、判決を受けること)を受ける権利があります。これを「三審制」と言いますが、第一審がこの図の一番下の3つのいずれか、第二審が真ん中の「高等裁判所」、そして第三審が一番上の「最高裁判所」ということになります。

三審制は原告側・被告側両方の権利なので、判決に不服があれば、訴えた側・訴えられた側どちらにも次の段階の裁判所で審判を受けるように申し立てる権利があります。これを「上訴(じょうそ)」と言います。
第一審から第二審へ上訴することを「控訴(こうそ)」と言い、第二審から第三審へ上訴することを「上告(じょうこく)」と言います。このため「第二審」は「控訴審」、「第三審」は「上告審」と呼ばれることもあります。

 

・「第一審」「第二審」「第三審」はそれぞれの役割がある


国民は誰でも3回の審理・審判を受ける権利がありますが、この「三審制」とは単に「気に食わない判決が出たので他の裁判官にもう一度裁いてもらう」という話ではありません。実はそれぞれの段階に、固有の役割があるのです。
「第一審」では、必要な証拠調べや証人尋問などが行われ、事件がどのようなものかを明らかにする審理が行われたうえで、審判が下されます。
「第二審」では、基本的には第一審で明らかにされた事件の内容に対して、一審の判決に論理則・経験則に照らして不合理がないかどうかを再検証します。具体的に言えば、「不十分な証拠で判決を下された」「判決の根拠となった事実に誤認があった」「過去の判例に比べて重い責任を課された(刑事事件の場合の量刑が重かった場合など)」というように、控訴には相応の理由が必要となります。
そして「第三審」では、法律上の問題のみが審理されます。一審・二審で既に明らかになった事件の概要をもとに、それに対する判決の妥当性を法律や判例に照らして判断しなおす場になります。上告が認められる条件は、基本的に二審で下された判決が「憲法に違反している場合」「過去の判例に反している場合」という理由に限られます。

このように、三審制にはそれぞれの段階の役割があるので、例えば第一審では必須の証拠調べや証人尋問といった事件の概要を明らかにする作業が、高裁の第二審ではかなり頻度が低いまれな作業となり、最高裁の第三審では全く行われないことになります。
また上記の通り、三審制は国民全員の権利ではあるものの、控訴・上告の理由には要件が定められているため、第二審・第三審と進む訴訟は段階ごとに少なくなって行きます。冒頭で説明した「第一審」を行う裁判所(地裁・家裁・簡裁)が合わせて538か所、「第二審」を行う高裁が8か所、「第三審」を行う最高裁は1か所、という設置数もこの訴訟の数とだいたい比例しているのです。

ちなみに国民が原告(訴える側)になる裁判はすべて「民事訴訟」で、国(検察官)が原告となる「刑事訴訟」とは異なります(詳しくはこちら【今さら聞けない訴訟の話①】「刑事訴訟」と「民事訴訟」の違いって、何?をご覧ください)。そして民事訴訟・刑事訴訟ともに最大3回の審理・審判を受けられる「三審制」の制度になっており、原告・被告のいずれにも「上訴」(「控訴」「上告」)する権利が認められています。

 

・第一審「地裁」「家裁」「簡裁」の役割


最大3回の「三審制」、そのそれぞれに役割があることは分かりましたが、では「第一審」に並んでいる3種類の裁判所「地方裁判所」「家庭裁判所」「簡易裁判所」には、どのような違いがあるのでしょうか。

簡単に言えば、家庭内での揉め事は家庭裁判所で、それ以外の揉め事は地方裁判所か簡易裁判所で争われます。そして地方裁判所と簡易裁判所の違いは、争う規模の大きさで決まっており、名前の通り「簡易な事件」が簡易裁判所で審理されるのです。”簡易”かどうかは、民事訴訟であれば賠償を求める金額、刑事訴訟であれば検察が求める形の軽重が基準となります。
民事訴訟では「請求金額が140万円以下」、刑事訴訟では「罰金以下の刑に該当する」というのが、簡易裁判所で扱う事件と決められています。この範囲に入らない事件は、基本的に地方裁判所で扱う事件です。つまり、前掲の図では3つ並列に並んでいた地方裁判所・家庭裁判所・簡易裁判所ですが、簡易裁判所は「地方裁判所の簡易版」といった性質を持っており、イメージ的には一段下の機関と捉えても良いでしょう。

言い換えれば、「簡易裁判所」は我々一般市民にとってはもっとも身近な裁判所であり、数も圧倒的に多いうえに、手続きを簡略化した様々な用件に対応しています。最近耳にすることが多くなった「少額訴訟」(60万円以下の支払いを求める場合のみ可能、審理は1回だけで即日判決が出る)や、「民事調停」(裁判まで行かずに、調停委員が間に入って当事者同士が話し合いで解決する)などが可能なのも、簡易裁判所の特徴です。

一方「家庭裁判所」は「地方裁判所」と並列の存在で、同数が存在しています。家庭裁判所は離婚の調停や非行少年の審理などが行われるため、法律的な知識だけでなく人間科学的な知見をもつ専門家も配置されており、総合的な問題解決の場となっています。

 

・まとめ


・国民誰もが原告でも被告でも、民事裁判でも刑事裁判でも3回審理・審判を受けられる「三審制」のシステムがあります。
・三審制を支えるために5種類の裁判所があり、全国には計1000ヵ所を超える裁判所やその支部・関連機関があります。
・「第一審」では地方裁判所で事件の内容を明らかにする、「第二審」では高等裁判所で一審判決の合理性を判断する、「第三審」では最高裁判所で憲法や判例に照らして整合性を判断するのが主な役割となります。
・「第一審」は通常地方裁判所で行われますが、規模(民事裁判で請求される金額や、刑事裁判で要求される刑の重さで判断)が小さい事件は簡易裁判所で、家庭内の事件は家庭裁判所で行われます。このため簡易裁判所は少額訴訟や民事調停の対応も可能で、設置数も圧倒的に多くなっています。